BLOG

2020.10.01

『タオと宇宙原理』〈38〉第一章 「空」―絶対性の否定

 では、「それ」だけが唯一この世界に存在するならば絶対なのか、その通りである。では、そのようなものはこの世に存在するかと問えば、考える要もなく存在しない。この世は相対的世界だからである。だが、この言葉は本当だろうか? 相対世界なるものは本当に存在するのだろうか。

 相対とは「私」と「彼」との存在関係を指すものである。一般に「彼」と「私」は相対的に存在していると言う。だが実はこの表現は論理学的には誤りであるのだ。相対なる世界などあり得ないからである。すなわち、相対とは「彼」と「私」とに存在という絶対性を付与した概念だからである。そう言われれば読者もお分かり頂けただろうが、つまり、相対という概念は絶対なる複数の存在を指すことであり、そこには明らかな矛盾が生じることになるのだ。

 個々の実体を肯定することは、その一つ一つに絶対存在の性質(自性)を持たせることになるからである。それは唯一という絶対の概念と矛盾してしまう。その結果、相対という世界も絶対という世界もこの世には存在しないことが判明するのである。他が存在するためには相対でなくてはならないが、存在するための条件として自己が絶対であろうとすると、他者の一切の存在を否定しなくてはならなくなってしまうので、そこに矛盾が生じることになり、自性は無しとされるのである。

(『タオと宇宙原理』第一章 意識と科学 古代の叡智と量子仮説 空と刹那生滅)