BLOG

2020.08.15

黒人霊歌やジャズと「侘び」

 しかし、これに類似する感情は他の人種でも持ち合わせているのだ。同様に封建時代までの世界は、否、黒人たちの悲劇を見ているとついこの間まで、下層の人々は支配者によって苦難、否、恐怖を強いられ辛酸を嘗めさせられてきた。その彼らと日本人はどこが違ったのかだ。それは、日本人は抵抗して勝ち取るタイプの人種ではなく現実を受け入れるタイプの運命論者であった精神背景のせいだと思われることである。

 一部問題があったとは言え、それを可能ならしめたのは謙虚を基本とされる天皇の存在であった。天皇の存在そのものが社会に歯止めをかけ、各地の権力を抑制していた為と思われる。世界の全ての国で横行した強い奴隷制を生じさせず、非人道的行為が他人種と比べて極めて弱かったことが、衆人に無抵抗的服従を受け入れさせていったのだと思われる。そこに仏教の無常観や末法思想などの影響があったと思われる。その諦めの人生観から、日本人特有の美が誕生したのだと考えられる。

 黒人の諦めからも黒人霊歌やジャズが生まれ、明らかに初段階の「侘び」が存在している。しかし、それ以上の「日本人的侘び」には到っていない。そこには明らかな不満と希望とが共有されていたからである。そこからは本物の「日本人的侘び然び」は生まれないのである。西洋では民衆は常に蜂起して戦い、革命を起こし、労働組合を作り、闘うことを手放すことがなかった。そこからは侘び然びの精神は創造されない。それは、日本人独特の諦め切ること(諦観)からしか生まれない美意識であるのだ!

(『侘び然び幽玄のこころ』第五章 「侘び然び」の再定義 否定的体験の再評価)