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2020.08.11

室町時代は日本精神の黎明期

 日本の「侘び然びの思想」が文献の中に出てくるのは、古くは奈良時代の万葉集(奈良時代七世紀後半~八世紀後半頃にかけて編纂された日本最古の和歌集)、そして平安朝の古今和歌集(平安時代九〇五年に天皇の勅令で編纂された最初の勅撰和歌集)の中にである。更に下って室町時代に入ると能やお茶や華道や俳諧といった世界で語られてきた。思想にまで昇華されない奈良平安鎌倉の時代には、わびは「わぶ」「わびし」といった使い方が多く、さびも同様で「さぶ」「さびし」「さぶし」といった使い方で、「わび」「さび」という名詞形は共に江戸時代に入ってから用いられたらしい。

 名詞形の「さび」の使用については芭蕉が最初と言われているが、既に万葉集の中に佐備、左備、窈窕などの漢字で表わされており、文献学的には所謂「然び」の概念は室町時代には既に確立されていたようである。日本精神の黎明期と言える当時はより直観的な仏教思想が支配していた時代でもあり、「侘び・然び・幽玄」の本格的概念の運用はそこからスタートしたのである。

(『侘び然び幽玄のこころ』第五章 「侘び然び」の再定義 貧しく清く簡素である「侘び」)