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2020.07.14
人々に平安を与えてきた幽玄の世界
それ(幽玄)を受け止める側のこちらにもいくつかの条件がある。何より素直な人間性を有していることだ。美的センスも要求される。寒さや暑さに心を引かれている情況下では、いくらこの様な光景が生じても、幽玄観は生じ難い。花火大会なら感激するだろうが、繊細な感性が要求される幻想の世界、陽性の幽玄には、体温がある程度健全な形で保たれている必要がある。但し、陰性については必ずしもその限りではない。猛暑や寒冷の中で体が悲鳴を上げている時にも、それは出現することが可能である。それでもその瞬間には、寒暑が一瞬消え去る感覚を覚えるだろう。
穏やかな中での幻想は幽玄を導き出し、大半の人々に共通した美として認識されることになる。月光の写真集が売れるのはそのせいであるのだ。人が同様の感動を覚える以上、そこに何らかの共通した意識なり感性が有されることを意味する。果たしてそれが何であるかは研究の対象とすべきである。少なくともそれは貧富の差に関係なく、日本人に限ったことでもない。世界人類共通の美意識であるのだ。
つまりは、人々は、その様な美を求めることで平安が得られているということである。
(『侘び然び幽玄のこころ』第二章 幽玄 透き通る陽性の幽玄)